試用期間中はわからないことだらけで、歯科衛生士が一番辞めたくなる期間であり、実際に辞めてしまう歯科衛生士が多いのも事実です。
辞めてしまう歯科衛生士が多いため、歯科業界に設けられた試用期間。
・「試用期間中は辞めても問題ない」
・「試用期間=お試し期間」
このように捉えている方は多いと思います。
試用期間について正しい知識をつけておくことは、転職活動においてはもちろん、入社後のトラブルを避けるために大切です。
今回はそんな試用期間について全てが分かるように説明していきます。
そもそも試用期間とは?
試用期間の本来の意味とは?
試用期間の本来の意味は、採用する側(歯科医院など)が、長期雇用を前提として、試しに雇用して適性があるのかないかの【試し期間】になります。
クリニックに合いそうかを歯科医院が判断できる期間が元々の成り立ちです。
試用期間の法的位置づけ
試用期間の設定は法的に義務付けられているものではありません。そのため試用期間自体がない歯科医院もあります。
就職活動中に選考が進んで内定が出たら、入職を決定する前に「試用期間から本採用になるおおよその割合」や「どんな歯科衛生士が本採用にならなかったか?」を聞いておくことも失敗しないためには有効です。
試用期間はどれくらい設けられる?
試用期間自体がない歯科医院もあるので、試用期間の長さについても法的な決まりがあるわけではありません。
ただ、一般的には1~6ヶ月の間、 その中で最も多いのは「試用期間3ヶ月」と言えます。
キャリアップ助成金とは、従業員を有期雇用(期間限定の雇用)から国が定める基準を満たした上で、無期雇用(皆さんがイメージする一般的な雇用)に切り替えることによって、クリニック側が受けられる助成金制度です。
6ヶ月間もあると何か裏があるのではないかと疑ってしまう衛生士さんもいらっしゃるかも知れませんが、制度上6ヶ月間は有期雇用という形にしなければいけないため、6ヶ月間の試用期間を設けているというだけの話のです。
無期雇用に切り替える際は、基本給を3%以上引き上げなければいけないため、もし試用期間中も給与額が下がらないのであれば、半年後に給与アップが見込める可能性が高いです。
また、法的な決まりがあるわけではありませんが、「1年以上の試用期間は不当」と裁判で判決が出たこともあります。
試用期間の延長は出来る?
試用期間が延長されることは多くはありませんが、「合理的な理由」があり、さらに「歯科衛生士の承諾」があれば延長になるケースもあります。
「合理的な理由」とは、例えば予定されていた出勤日数よりも大幅に少なく、歯科医院への適性について判断が出来なかったケースなどがあります。
試用期間の解雇について
【試用期間中の解雇について】
「試用期間中にクビになることはありますか?」
この質問はよく聞きます。
「クビ=解雇」になることはありますが、 試用期間中だから簡単に解雇できるという訳ではありません。
正当な理由とは「勤務態度が著しく悪い」「欠勤が多い」「経歴を詐称した」などが挙げられます。
歯科衛生士の中には転職を繰り返してしまっため、短期間勤務の経歴を履歴書に記載しない方がおりますが、もしクリニック側がこの事実を知ってしまった場合には、クビにされてしまう可能性もあるということです。
ただし、試用期間の最初の14日以内だけは、上記のような正当な理由がなくても歯科医院から解雇ができることになっています。
この期間だけは特例になりますので、覚えておきましょう。
試用期間中の待遇について
試用期間中の給与と本給与
「試用期間3ヶ月はマイナス1万円」
「試用期間1ヶ月は時給1,500円」
このような表記を求人で見かけたことがある方は多いと思います。
試用期間中の給与が本給与と異なるケースは少なくないですが、雇用契約書や就業規則に記載があれば問題ありません。
歯科衛生士の求人では見かけないと思いますが、 試用期間中の平均時給が各都道府県の最低賃金より低くなっているのは違法です。
保険の加入について
試用期間は長期雇用を前提とした【お試し期間】。
そのため通常の雇用契約と変わりません。
特例を除いて雇用保険、健康保険、厚生年金の加入が義務付けられています。
※労災保険は無条件で加入の義務があります。
特例とは1~6ヶ月の期間を定められた働き方や、場所が決まっていない働き方をする方、または国保組合の事業所で働く方などになります。
歯科医院の中で、「国保組合の事業所」に該当するところがありますが、数としては極めて少なく、 歯科衛生士さんに関しては上記の特例はほぼ当てはまらないと考えてよいでしょう。
求人を見る際のポイント
まずは試用期間の記載があるか確認しましょう。
試用期間が6ヶ月など長く設定されている歯科医院は、比較的慎重に人材(歯科衛生士)を見ているところが多いです。
また、試用期間中の給与など待遇について記載があるかも見ておきましょう。
歯科医院によっては求人情報では詳しく書いていないところもありますので、そこは面接時などに確認することをお薦めします。
面接時に確認すること
求人で詳細がどこまで書かれているかによりますが、まずは試用期間の長さ、給与、加入出来る保険については確認するとよいと思います。 保険については入社してどれくらいから加入出来るかも確認しておくとよいでしょう。
先ほども書きましたが「試用期間の突破率」を聞いてもよいでしょう。
もちろん院長先生も明確には答えられない部分もあります。
「どれくらいの割合で本採用になっているか」
「どんな歯科衛生士が本採用にならなかったか」
これらを面接時や入職を決める前に聞くことで、
その歯科医院にとって合う歯科衛生士像が見えてきますよね。
また、試用期間中の待遇や突破率だけでなく、院長先生の治療方針や歯科衛生士が行う仕事について詳しい話を聞くことは試用期間中の退職を避ける上で重要なことは言うまでもありません。
>>歯科衛生士の面接時 / これだけは押さえておきたいポイント
試用期間中の退職
退職理由と回避方法
試用期間中の退職理由は主に4つが挙げられます。
①人間関係・雰囲気
②待遇面
③仕事内容・やりがい
④衛生面
①人間関係・雰囲気
やはり一番多いのは「院長先生やスタッフと合わない」という理由での退職。
「面接のときと別人だった・・」
「治療がいい加減すぎて我慢ならないし、患者さんへの対応も医療人として信じられない..」
要するに、面接時とのギャップの大きさが試用期間中の退職に繋がるということが多いと言えます。
面接時の院長は採用のために大かれ少なかれ「良い顔」をするものなので、それも込みで入職を検討した方がよいでしょう。
また、院長の治療の見学をしないで入職することもリスクになります。
面接だけではなく、治療の見学をすることで患者さん対応も見ることが出来るので、必ず見て決めるようにしましょう。
スタッフの人間関係で退職になるケースも少ないとは言えません。
「スタッフ同士がギクシャクしている」「お局さん的なきついスタッフがいる」「新人を無視するようなイジメに近い扱い」などスタッフの人間関係はとても複雑です。
入職前に全てを把握することは不可能に近いですが、リスクを少なくしたい場合は、半日や1日の体験勤務をしてみたり、お昼休みをスタッフと一緒に過ごして接触時間を増やしてみるのもよいかもしれません。
②待遇面
「給与」「保険」「残業時間」などが要因です。
「給与」に関して。
試用期間中の給与は記載通りでも、本採用時に提示された給与が希望していた金額と大きく差があれば辞めてしまうことはあります。
どのくらいのことが出来れば提示されている給与を出してくれるのかも面接時に聞いておくとよいでしょう。
また、給与の支払いが遅い、給与明細が出ないなどの理由で辞めるケースもあります。
「保険」に関して。
入職前に加入できると思っていたが、実際には加入していなかったというケースです。
保険を重視している場合は入職前に加入出来る保険を再確認しておいた方がよいでしょう。
「残業時間」に関して。
実際に働いてみないと分からない部分もありますが、求人の記載よりも大幅に長いと試用期間中の退職に繋がるケースもあります。
面接時には少し聞きづらいかもしれませんが、診療が終わる時間帯を見学するなどでスタッフの退社時間を知ることもできると思います。
③仕事内容・やりがい
院長先生の治療や患者さん対応に近いですね。自分がやりたいと思っていた仕事内容と大きなギャップがあったり、歯科医院のやり方に合わせることが難しいと感じて辞めてしまうこともあります。
新しい歯科医院で働く場合は「その歯科医院のやり方に合わせる」ということは最も重要なポイントになります。見学でしっかり見て、面接時にしっかり聞くことが大事になります。
④衛生面
皆さんが思っている以上に試用期間中の退職理由で多いのが衛生面。 具体的には院内の衛生管理、感染対策になります。
見学時に見るのが難しければ、院長よりも実際に滅菌を行っているスタッフの方に聞くと確実です。
特にコロナウィルスによって感染対策は歯科医院によって再び大きく変わっている部分もあります。
院長先生の感染に対する考え方も聞いておくこともお薦めします。
辞めるときに保険や給与は?
給与に関しては、出勤して働いた日数分の給与は支払われます。
「仕事も覚える前だから給与は払いたくない」などと言う院長先生もいますが、完全に違法です。
勤務開始14日以降の医院からの解雇については、通常の法律通りに30日以上前の解雇予告または、30日以下の給与保証が必要になります。
試用期間中に突然職場に行かなくなり、そのまま辞めてしてしまう場合もあります。
これに関しては歯科衛生士さんの行動にも問題はありますが、こちらの場合でも法律的には歯科医院に給与の支払い義務は生じます。
保険に関しては退職してすぐに歯科医院が加入している保険から外れることになります。
すぐに別の歯科医院で働かない場合は保険に未加入の状態になりますので、ハローワークや市役所に行って保険の変更手続きを行う必要があります。
試用期間中の退職は履歴書に書くの?
「試用期間中に退職した歯科医院は履歴書に書かなくていいですか?」
これも歯科衛生士さんからよく質問を頂きます。
答えとしては以下になります。
「試用期間中の退職であっても、履歴書の職歴欄には必ず書くようにしましょう」
隠しておいたことが雇用保険の履歴などから発覚すると、場合によっては経歴詐称とされ、信用を失う可能性があります。選考中の場合は採用を見送られる可能性もあります。
短期間での退職は、基本的には歯科医院に対して良い印象を与えませんが、面接の際に試用期間で退職した理由をしっかりと説明することができれば問題ありません。
また、退職理由以外の質問に前向きな姿勢が伝わるように答え、試用期間中に退職したことをフォローしましょう。