中規模サイズのクリニックで働く歯科医師、とくに勤務医の給与がどのようになっているかを調べてみました。参考にしたデータは、平成28年と平成29年と平成30年の厚生労働省の賃金構造基本統計調査です。
歯科医師の給与がいくらなのかを知るのに厚生労働省の賃金構造基本統計調査は有益な情報ソースではあるのですが、これにも問題があります。それは、この金構造基本統計調査が企業規模10人以上の会社に勤務している労働者(歯科医師)が対象になっていていることです。
なぜなら、歯科医師の多くは、企業規模(クリニックの従業員数)が10人以下のクリニックで働いていると思われるからです。したがって、どうしても実情と違うと感じるのでしょう。
この調査はすでに述べたように企業規模が10人以上となっているのですが、「企業規模1,000人以上」と「企業規模100~999人」と「企業規模10~99人」別のデータも一部載っています。平成28年(2016年)と平成29年(2017年)と平成30年(2018年)のそれぞれの調査で、この3つの企業規模に該当する歯科医師の割合を円グラフで表してみますと以下のようになります。
やはり、「企業規模10~99人」に該当する歯科医師の割合が断然多いです。「企業規模10~99人」でも歯科のクリニックでも歯科の中では大きい方になりそうですが(10人強の規模と50人以上の規模ではだいぶ違うのですが・・・)、この情報ソース以上に信用できるものはなかなかありません。
そこで、この「企業規模10~99人」に該当する歯科医師の給与の分布を調べてみることとで中規模サイズのクリニックで働く歯科医師、とくに勤務医の給与がどのようになっているかと考えてみたいと思います。
平成28年(2016年)と平成29年(2017年)と平成30年(2018年)の企業規模10~99人で働く歯科医師の給与(月給)額での度数分布表は下記のようになりました。
給与(月給) |
平成28年調査
|
平成29年調査
|
平成30年調査
|
10.0~19.9万円 |
90 |
0 |
10 |
20.0~29.9万円 |
360 |
600 |
570 |
30.0~39.9万円 |
700 |
1,660 |
1,560 |
40.0~49.9万円 |
570 |
770 |
760 |
50.0~59.9万円 |
1,140 |
920 |
610 |
60.0~69.9万円 |
530 |
1,710 |
470 |
70.0~79.9万円 |
360 |
400 |
550 |
80.0~89.9万円 |
790 |
560 |
460 |
90.0~99.9万円 |
310 |
340 |
140 |
100.0~119.9万円 |
250 |
440 |
100 |
120.0万円~ |
430 |
60 |
560 |
企業規模10~99人で働く歯科医師に関して、平成28年調査ではおよそ5,530人、平成29年調査ではおよそ7,460人、平成30年調査ではおよそ5,790人がサンプル数の抽出調査です。上記の表からわかることは、例えば給与(月給)額が「50.0~59.9万円」だった歯科医師が、平成28年(調査で)はおよそ1,140人、平成29年(調査で)はおよそ920人、平成30年(の調査)ではおよそ610人該当したとなります。調査対象の人数を「およそ」としているのは、1の桁の人数が厚生労働省のデータで省略されているため正確な人数がわからないためです。
上記の度数分布表をグラフにしてみたのが下図です。
まずは、平成28年と平成29年の分布に注目してみましょう。分布は共に2つの大きな山があるような形です。従業員数が10人以上の中規模のクリニックであるので、従業員の中に勤務医がいるはずです。常識に考えてこのような複数の歯科医師が在籍しているクリニックでは、「(経営者の歯医師の給与)>(役職のある勤務医の給与)>(普通の勤務医の給与)」であり、「(経営者の歯医師の人数)<(勤務医の人数)」のはずです。
このようなことを踏まえると、平成28年と平成29年の分布の2つの山のうち給与額が小さい方は勤務医に該当する人たちだと思われます。
平成28年(2016年)では給与額「50.0~59.9万円」、平成29年(2017年)では給与額「30.0~39.9万円」がまさに勤務医に該当する給与でしょう。ただ、平成28年と平成29年ではかなり給与額に差があります。平成28年の分布を確認すると給与額「30.0~39.9万円」が3番目に大きな山となっています。一方で、平成29年では給与額「50.0~59.9万円」が3番目に大きな山となっています。
こうなると、経験が少なめ(若手)の勤務医の給与がおおむね「30.0~39.9万円」で、経験があり役職もあるかもしれない勤務医の給与がおおむね「50.0~59.9万円」ではないかと。
上記の考察から除外していた平成30年の場合は、給与額「30.0~39.9万円」が突出して多い分布の形をしています。この給与額「30.0~39.9万円」の集団は、経験が少なめの勤務医なのは間違いないでしょう。一方で経験を積んで給与が上がっているような勤務医の集団が、平成30年の調査データからははっきりみえません。これはこの年だけなのか、それとも勤務医の給与自体が抑えられるような傾向になってきたのかは現状では不明です。
上記の考察から、歯科勤務医の給与(月給)は経験が少なめの頃は「30.0~39.9万円」で、順調に経験を積むとの給与(月給)は「50.0~59.9万円」になると言えるでしょう。さらに役職が付くと役職手当などで給与はさらに上がるはずです。
月給を元に歯科勤務医の年収を推測するならば、「年収 = (給与額) ×12 + (年間賞与その他の特別給与額) 」という計算となります。そう年収となると「年間賞与その他の特別給与額」、いわゆるボーナスなどの金額も必要です。
厚生労働省の賃金構造基本統計調査から、企業規模10~99人に該当する歯科医師の年間賞与その他の特別給与額の平均を調べてみると以下のような値でした。
調査年 |
年間賞与その他の特別給与額 |
平成28年 |
33.5万円 |
平成29年 |
33.1万円 |
平成30年 |
56.3万円 |
したがって、中規模の歯科クリニックに勤める経験が少なめ歯科勤務医の年収はおよそ「400~500万円」、ある程度経験を積んだ歯科勤務医の年収はおよそ「650~750万円」ではないかと思われます。
もちろん、環境やその人の技量などによって給与は変わってきますから、上記の値はあくまでも1つの目安として考えてください。例えば、勤務医でも年収3,000万円を超えている30代の歯科医もいそうだと同じ調査データから推測できたりもします。詳しくは「歯科勤務医は年収3,000万円の夢を見るか?」を参照してください。
厚生労働省の賃金構造基本統計調査の職業別給与分布は、実は男女別のデータとなっています。上記ではわかりやすいようにこちらでまとめ紹介しました。そこで、企業規模10~99人に勤務する男性歯科医師と女性歯科医師の給与(月給)の平均値と中央値をまとめて紹介しておきます。中央値は、データをまさに真ん中の順位の人の値です。例えばサンプル数が5,530人ならば、昇降順に並べて2,765番目に該当する人の値が中央値となります。
企業規模10人以上のすべての規模の調査結果は「歯科医師の給与分布と代表値(平均値・中央値・最頻値)を調べてみました」を参考にしてください。
給与額 |
男性歯科医師 |
女性歯科医師 |
平均値 |
71.5万円 |
62.8万円 |
中央値 |
63.4万円 |
47.2万円 |
給与額 |
男性歯科医師 |
女性歯科医師 |
平均値 |
61.9万円 |
46.4万円 |
中央値 |
61.3万円 |
41.2万円 |
給与額 |
男性歯科医師 |
女性歯科医師 |
平均値 |
61.6万円 |
60.2万円 |
中央値 |
47.3万円 |
51.7万円 |
男性歯科医師と女性歯科医師の給与差が気になる方は、「歯科医師の給与の男女差は?勤続・経験年数などと共に比較してみました」も参照してみてください。