歯科医師の給与実態を把握するには、厚生省の調査データが使えますが単に平均値(平均給与)だけではわからないことがあります。給与分布、中央値なども確認してより実態に迫ってみたいと思います。
厚生労働省の賃金構造基本統計調査には、職業別の給与分布が示されています。もちろん歯科医師の給与(月給)の分布も記載されています。そこで、平成28年(2016年)と平成29年(2017年)と平成30年(2018年)の歯科医師の給与分布を調べてみました。
なぜ3年分かというと、各調査でサンプルにどうも特徴があるようで、とくに平成30年の調査はそのサンプルが特殊と思えたのが理由です。まずは、各調査の度数分布表を下記にまとめてみました。
給与(月給) |
平成28年調査
|
平成29年調査
|
平成30年調査
|
10.0~19.9万円 |
530 |
280 |
140 |
20.0~29.9万円 |
820 |
680 |
750 |
30.0~39.9万円 |
780 |
1,750 |
1,760 |
40.0~49.9万円 |
810 |
830 |
890 |
50.0~59.9万円 |
1,700 |
990 |
740 |
60.0~69.9万円 |
770 |
2130 |
530 |
70.0~79.9万円 |
850 |
480 |
780 |
80.0~89.9万円 |
1,020 |
870 |
530 |
90.0~99.9万円 |
580 |
640 |
140 |
100.0~119.9万円 |
580 |
540 |
100 |
120.0万円~ |
690 |
170 |
910 |
この賃金構造基本統計調査で注意してほしいのは、企業規模10人以上(クリニックの従業員数が10人以上)のクリニックに勤務している労働者(歯科医師)が対象になっていて、平成28年調査ではおよそ9,090人、平成29年調査ではおよそ9,340人、平成30年調査ではおよそ7,250人がサンプル数の抽出調査です。上記の表からわかることは、例えば給与(月給)額が「50.0~59.9万円」だった歯科医師が、平成29年(調査で)はおよそ1,700人、平成29年(調査で)はおよそ990人、平成30年(の調査)ではおよそ740人だということです。調査対象の人数を「およそ」としているのは、1の桁の人数が厚生労働省のデータで省略されているため正確な人数がわからないためです。
上記の度数分布表をグラフにしてみたのが下図です。当然といえば当然なのですが、正規分布のような左右対称の山の形の分布にはなっていないことがわかります。平成28年は階級(給与額)「50.0万円~59.9万円」がピークで階級「80.0万円~89.9万円」にも小さなピークがあるように見えます。平成29年は階級「60.0万円~69.9万円」に非常に大きなピークと階級「30.0万円~39.9万円」にも大きなピークがあります。平成30年は階級「30.0万円~39.9万円」に非常に大きなピークがあり階級「120.0万円~」が2番目に大きなピーク(一番大きなものの半分程度)になっています。
各年の各階級の該当者の割合を見るために円グラフも作ってみました(下図参照)。これらの結果を見ると三者三様というか、平成28年は「給与額が50.0~59.9万円に該当する人が他に比べ異常に多すぎないか?」とか、平成30年は「給与額が120.0万円以上に該当する人がその年で占める割合が、他の年に比べて大きすぎないか?」などグラフを見るだけいろいろ思う所がでてきますね。
ここまで分布が各年バラバラで(とは言え、基本的には給与が低額と高額の2つの山が常にある分布のような気がします)、年によってサンプルに偏りがあると歯科医師の給与を平均値だけでみても実態はつかめそうにありません。そこで各調査の平均値と中央値と最頻値をまとめてみました(注:中央値と最頻値は給与額の階級となります)。
まずは、平均月給です。給与の他に平均年齢と平均勤続年数も一緒に表記しておきます。年収を考えるならばボーナスなどを加味することになりますが、給与分布のデータは月給のみのデータなので、ボーナスなどのデータはここでは省略します(平均年収を知りたい方は「歯科医師の平均年収(給与):クリニック規模と給与の関係」を参照してください)。
項目 |
平均値 |
年齢 |
40.3歳 |
勤続年数 |
5.5年 |
現金給与額(月給) |
68.6万円 |
項目 |
平均値 |
年齢 |
37.9歳 |
勤続年数 |
6.7年 |
現金給与額(月給) |
60.5万円 |
項目 |
平均値 |
年齢 |
37.8歳 |
勤続年数 |
5.7年 |
現金給与額(月給) |
64.4万円 |
歯科医師の月収中央値は55万円、年収中央値に換算すると660万円です。
中央値は、データをまさに真ん中の順位の人の値です。今回の場合は、例えば平成28年調査ではおよそ9,090がサンプル数でしたから、給与額で昇降順に並べて4,545番目の人がいる階級が「50.0~59.9万円」ということです(元データの関係で、階級で表しています)。最頻値は、該当者がもっとも多い階級です。例えば平成28年調査では、該当者が「1,700」がもっとも多い階級「50.0~59.9万円」が最頻値の含まれる給与額となります。
項目 |
階級(給与額) |
中央値 |
50.0~59.9万円 |
最頻値 |
50.0~59.9万円 |
項目 |
階級(給与額) |
中央値 |
60.0~69.9万円 |
最頻値 |
60.0~69.9万円 |
項目 |
階級(給与額) |
中央値 |
50.0~59.9万円 |
最頻値 |
30.0~39.9万円 |
平成28年と平成30年は、平均値は中央値(が含まれる階級)よりも大きくなっています。これらの年の調査では、全体の半分が平均より少ない月給をもらっているということです(このような給与の統計ではよくある現象だと思います)。つまり、儲かっている歯科医は儲かっているが、儲かっていない歯科医もけっこういるということでしょう。ただ儲かっていないと言っても歯科医師は全ての職業の中では高額給与をもらっている職種に該当しますけどね。
とくに注目したいのは、平成30年です。最頻値の階級が「30.0~39.9万円」であり、他の2つよりもかなり低いです。それも平成30年で階級「30.0~39.9万円」は全体の24%を占めていてダントツに多いです。しかし平成30年の調査の平均値と中央値は、他の年と比べても差が大きくありません。これは、分布のグラフ等を見てもらえればすぐわかりますが、階級「120.0万円~」の人が全体に占める割合13%と2番目に大きいのが影響しています。これが、全体の24%を占めている階級「30.0~39.9万円」の影響を相殺して、平均値を他の年と変わりないようにしているとわかります。
平均値は、データを代表している値のような感じを強くよく使われていますが、極端な値があるとそれが考慮されてしまうというデメリットがあります。平成30年はそのような極端な特徴があるといえるのですが、なぜか両方(値が小さい方と値が大きい方)に極端なものがバランスよくあって他の年と同様の平均になっていますね、なぜか・・・。
なお平成30年の階級「120.0万円~」の歯科医師は、どうも院長とか経営者とか主でないようなことがデータからうかがえるのです(詳しくは「歯科勤務医は年収3,000万円の夢を見るか?」を参照してください)。
厚生労働省の賃金構造基本統計調査の職業別給与分布は、実は男女別のデータとなっています。上記ではわかりやすいようにこちらでまとめ紹介しました。なお、データは上記で述べたように企業規模10人以上(クリニックの従業員数が10人以上)のクリニックに勤務している労働者(歯科医師)のものとなっています。そこで、もとの男女別のデータを下記に資料として紹介しておきます。なお、男女別の元データでは中央値(中位値)が数値で記載されていますので、そちらも記載しておきます。
給与額 |
男性歯科医師 |
女性歯科医師 |
10.0~19.9万円 |
420 |
110 |
20.0~29.9万円 |
420 |
400 |
30.0~39.9万円 |
530 |
250 |
40.0~49.9万円 |
340 |
470 |
50.0~59.9万円 |
1,180 |
520 |
60.0~69.9万円 |
660 |
110 |
70.0~79.9万円 |
560 |
290 |
80.0~89.9万円 |
960 |
60 |
90.0~99.9万円 |
510 |
70 |
100.0~119.9万円 |
390 |
190 |
120.0万円~ |
490 |
200 |
給与額 |
男性歯科医師 |
女性歯科医師 |
平均値 |
71.8万円 |
60.9万円 |
中央値 |
63.7万円 |
53.4万円 |
給与額 |
男性歯科医師 |
女性歯科医師 |
10.0~19.9万円 |
120 |
160 |
20.0~29.9万円 |
340 |
340 |
30.0~39.9万円 |
1,110 |
640 |
40.0~49.9万円 |
530 |
300 |
50.0~59.9万円 |
710 |
280 |
60.0~69.9万円 |
1,640 |
490 |
70.0~79.9万円 |
480 |
0 |
80.0~89.9万円 |
770 |
100 |
90.0~99.9万円 |
540 |
100 |
100.0~119.9万円 |
420 |
120 |
120.0万円~ |
170 |
0 |
給与額 |
男性歯科医師 |
女性歯科医師 |
平均値 |
64.7万円 |
49.0万円 |
中央値 |
64.4万円 |
42.4万円 |
給与額 |
男性歯科医師 |
女性歯科医師 |
10.0~19.9万円 |
80 |
60 |
20.0~29.9万円 |
320 |
430 |
30.0~39.9万円 |
1,320 |
440 |
40.0~49.9万円 |
670 |
220 |
50.0~59.9万円 |
360 |
380 |
60.0~69.9万円 |
220 |
310 |
70.0~79.9万円 |
560 |
220 |
80.0~89.9万円 |
330 |
200 |
90.0~99.9万円 |
90 |
50 |
100.0~119.9万円 |
100 |
0 |
120.0万円~ |
790 |
120 |
給与額 |
男性歯科医師 |
女性歯科医師 |
平均値 |
70.3万円 |
57.4万円 |
中央値 |
51.2万円 |
50.6万円 |
男性歯科医師と女性歯科医師の給与差が気になる方は、「歯科医師の給与の男女差は?勤続・経験年数などと共に比較してみました」も参照してみてください。