「患者さんに対して実際にやってみるとうまくいかない」
「スケーリングが苦手である。コツはある?」
このようにお悩みの方に、スケーリングのコツや苦手克服の方法をご紹介します。
学校で習ったものの、臨床現場に出ると同じようにいかないものですよね。
模型でできても臨床では唾液があって視界が遮られ、舌や頬粘膜が邪魔をし、歯並びも人によってさまざま。舌側傾斜している歯の舌側を触ろうものなら、舌が踊りだしてミラーもスケーラーも入らない…なんてことはしばしばあります。
そんなときに職場の先輩に気軽に聞ける環境があればよいのですが、
「歯科衛生士は自分ひとりである」
「先輩がいない」
「先輩がいても聞ける雰囲気ではない」
「聞いても教えてもらえない」
…このようなことも多いですよね。
セミナーや本は高いですし、情報がたくさんありすぎて何を選べばいいかわからず、結局なにもできずに時間だけが過ぎていくこともあるのではないでしょうか。
私もそのひとりでした。
その後、私は「このままではダメだ!」と一念発起し、さまざまな本を読んで、セミナーに参加してみました。すると、学校で習ったこととは違う部分もあること、講師の歯科衛生士さんによって良しとすることが違うこと、ベースの部分は共通点もあることなどがわかりました。
それらを踏まえて、私は自分が一番納得できる方法を取り入れ、実践し、今に至ります。
そこで今回は、実際に患者さんへ行なった経験を元に、現役の歯科衛生士である本吉が解説させていただきます。
スケーリング・ルートプレーニングとは
「スケーリング・ルートプレーニング」は略してSRPとも呼ばれます。
スケーリング(Scaling)は「歯の表面の歯石やバイオフィルムを除去すること」で、ルートプレーニング(Root Planing)は「歯根面の歯石や汚染されたセメント質を除去し、歯根を滑沢にすること」です。
ほかにもこれらに似た言葉が複数存在していて、縁上・縁下スケーリングやデブライドメント、キュレッタージなどがあります。
昔はセメント質を削るように滑沢にするイメージが強かったSRPですが、現在はできる限り歯質を残して最低限の処置に留め、歯牙を守る傾向になってきました。
これらの常識も日々変わっていっているので、常に知識の更新が必要です。
スケーリングの種類
スケーリングに用いる器具機材の種類は3つあります。
1. エアスケーラー
前はこちらが主流でしたが、今では超音波スケーラーを用いている医院が多いのではないでしょうか。
そうはいってもエアスケーラーの良さも見直されています。超音波との違いは周波数で、超音波スケーラーは25000~40000Hzに対し、エアスケーラーは2500~6500Hzでパワーが弱めです。
タービンのハンドピース部に付け替えるだけで使用でき、出力を変えることはできません。超音波では禁忌のペースメーカーの患者さんに対して、エアスケーラーは比較的安心して使用できます。超音波よりも当たりがやさしいので傷つけにくい反面、歯石除去率は劣ります。
2. 超音波スケーラー
超音波は液体内で振動させるとキャビテーション効果を起こすことができます。
気泡が弾けることで歯面の汚れや細菌を除去します。超音波のエネルギーが歯石を粉砕し、洗い流します。エアスケーラーも似た効果を発揮しますが、キャビテーション効果はありません。
超音波の振動装置は「マグネット型(楕円・円状に動く)」「ピエゾ型(線状に動く)」の2種類あり、最近ではピエゾ型が主流となっています。エアスケーラーは出力を変えることができませんが、超音波は可能で、かたい歯石があるときには強くすると除去できます。
逆に超音波でもパワーを最小限にしてチップの種類を気にかければ、デブライドメントのような使い方をすることができ、侵襲少なく使用することも可能です。
3. ハンドスケーラー(手用)
ハンドスケーラーは、臨床で主に使われているのは「鎌形(シックルタイプ)」と「鋭匙型(キュレットタイプ)」です。
鎌形は両刃で前歯部の隣接面や臼歯部のコンタクト直下の縁上歯石の除去に適しています。
キュレットは片刃のグレーシーと両刃のユニバーサルがあり、グレーシーが主流となっています。
縁下歯石を除去するのに適していて、グレーシーは番号ごと歯に合わせた形になっているので、すべての部位に使用することが可能です。
最低でも前歯部用、臼歯部の近心用、遠心用の3本は必須で、複数用意する必要があります。
事前準備を制するものはスケーリングを制する
これらの情報をすべて事細かに説明していると膨大な量になってしまうので、今回は軽くご紹介する程度にしておきます。
これから紹介するのは小手先のことではありません。スケーリングを上手にこなしていく上で重要なのは事前準備です。基本を飛ばして応用をやってもできるようになりません。一番面倒くさくて面白みのないところこそ意味があると筆者は思っています。
歯科衛生士の重要スキル「スケーリング」のコツ・苦手克服方法
「スケーリングに対する苦手を克服すために大切なこと11選」をご紹介します。
1. 資料がしっかりとれている
口腔内写真(9か12枚法)、歯周基本検査(6点法)、レントゲン(デンタル10枚か14枚法)は必要です。いきなりハードルが高くてすみません。
しかし、かなり大切です。患者さんへの情報共有のほか、自分でもあとから振り返ることができ、気づきを得られることも多いです。ただ、院内の仕組みができていないと難しいことも…。
2. 資料の分析ができる
病態をしっかり見極める目を養います。健康と病気の見極めができていないとスケーリングもなんとなく当てるだけになってしまいます。
「そこに歯石があるから挿入する」が基本で、原因がわかっていないで無闇矢鱈に傷つけることはしないこと。
3. ポジショニングやライティングが適切
覗き込む姿勢ではきちんと歯石が取れません。またライトが当てられていないとちゃんと見えていないことがほとんど。
正しい姿勢やポジショニングにすると患者さんも自分自身もとてもラクです。
4. 歯牙の特徴を把握している
歯牙の特徴を知っていないと、歯石なのか、セメント質剥離なのか、など見極めることができません。
プロービングするときはただ計測するだけではなく、歯石の探知はもちろん、歯牙の形態も確認しておきます。
5. 歯石の探知ができる、見えている
手指の感覚を養って歯石を探知します。拡大鏡やマイクロスコープを使用して歯石を見る力をつけることも役立つことがあります。
6. ミラーテクニックが使いこなせている
左手にバキューム、右手にスケーラーはNG。ミラーを使いこなせていないと舌側や遠心は絶対に見えていません。
7. シャープニングがしっかりできている
SRPでいちばん大切なのはシャープニングかもしれません。切れるキュレットを用意していないと無駄に歯肉や根面を傷つけてしまいます。
超音波も刃があるチップはシャープニングします。先細りや形態修正不可能なスケーラーしかない場合は買ってもらいましょう。ハンドスケーラーやチップは消耗品です。
8. スケーラーを適切に把持して動かせている
手指に負担なく把持して操作できること。模型上でスムーズに動かせていないと口腔内ではもっとできません。
9. 歯牙に沿わせて歯肉を広げていない
SRPは麻酔をしなくても十分できます。痛みがあるということは侵襲している可能性が高いです。根面に沿わせて、歯肉を広げないようにします。
10. 歯面や歯肉を無駄に傷つけていない
側方圧をかけすぎて傷つけていませんか。超音波はほとんど力が必要なく、ハンドでも歯石を弾く一瞬のみテコの原理を使いますが、ほとんど力はいりません。
11. 超音波やスケーラーの特徴を把握している
それぞれの特徴をしっかり把握していること。メーカーによっても使用感が異なるのでご自身の医院で使用されているものはどういったものか勉強しておきましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。大切なのはスケーラーを実際に使用しているときよりも、その前の準備のことがほとんどでしたよね。
また、スケーリングなどの技術系は下記のことが必須です。
- ・本で勉強する
- ・セミナーに参加する
- ・自分で練習する
知識をつけるためには何度も繰り返し確認できる本を使います。
しかし、技術系はそれだけでは難しく、セミナーには絶対に行ったほうがいいでしょう。
セミナーは「短時間」「講師一人に対して大人数の受講生」の講座はやめたほうが無難です。雰囲気だけ味わって、結局なにも得られず終わります。
金額はかかりますが、SRPは「数日コースのセミナーを受講する」のがおすすめです。
1グループ数人につき講師がつきっきりでいて、自分にかけてくれる時間が長いこと、SRPを網羅するには一日では終わらないので数日かけてくれること、フォローアップもあると尚良しです。
自分の手を持ってもらいながら講師の先生に動かしてもらったときは「これが歯面に沿わせる感覚なのか」とびっくりするほど感動します。
また、セミナーに行っただけで満足して終わらないこと。セミナーへ行ったあとは練習しなければ何も意味ありません。1日15分でも構いません。毎日積み重ねていくと、触れる部位がどんどん増えていって日々の成長を痛感できます。
そして、模型で十分に練習できたら、人のお口を借りてできるのが理想的です。患者さんを練習台にしないようにしてみてください。
スケーリングは奥が深くて、記事だけでは紹介しきれません。
ぜひ一歩踏み出して本に手を伸ばしたり、セミナーに足を運んだりしてみてください。
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ライター
歯科衛生士/ライター・動画編集者
歯科医院で歯科衛生士をしながら、歯科メディアにてライター・動画編集者としても発信活動中。
現場で働くからこそわかる、リアルな声をお届けします。