応募=実際に見学面接に来るとは限らない
「応募は来たのに、面接に現れない」「連絡がつかない」――。
こうした状況は、今や多くの歯科医院で日常的に起きています。応募が届いた段階では「今回は採用が進みそうだ」と期待が高まるものですが、実際には面接に至らないままフェードアウトしてしまうケースも少なくありません。
このような“面接辞退”や“無断キャンセル”が発生するのは、単に応募者のモラルや意欲の問題ではありません。背景には、応募者自身の心理的ハードルや、無意識に働く認知バイアスが関係しています。
面接に来ない理由は「やる気の欠如」だけではない
応募者の行動の裏には、単なる怠慢ではなく、無意識のうちに働く心理や社会構造の影響があります。
・応募が複数にわたる中での選択疲れ
・医院側からの連絡によって生じる不安
・面接を辞退したくても言い出せないプレッシャー
いずれも、誰しもが持ちうる“人間らしい心理”です。
面接に来ない理由
理由①:応募者は他の医院にも応募している
現在の求人市場では、求職者が複数の医院に同時に応募することが一般的です。衛生士求人サイトの「まとめて応募」機能も普及し、「とりあえず応募して比べる」というスタイルがスタンダードになっています。
ただし、選択肢が増えれば増えるほど、どれか一つに決めることが難しくなるのが人間の心理です。これは「選択のパラドックス」と呼ばれる現象で、選択肢が多すぎると決断そのものを避ける傾向が強くなります。
そうした中で、「最初に対応が早かった」「一番印象が良かった」という理由だけで、他の面接予定を辞退するケースも珍しくありません。面接辞退の背景には、こうした比較疲れや意思決定のストレスがあるのです。
理由②:医院側の対応が不安を生むことも
応募後に受ける医院側の対応が、応募者に不安を与えてしまうこともあります。たとえば返信が遅い、文面が事務的すぎる、連絡が来ないまま数日放置されると、「この医院はちゃんとしているのだろうか?」という疑念が生まれます。
一度そうした不信感を抱くと、それを裏付ける情報ばかりを探してしまう「確証バイアス」が働きます。加えて、ホームページが古い、SNSの更新が止まっている、口コミでネガティブな内容を見つけた――となれば、面接に行く気持ちは一気に冷めてしまいます。
応募者は医院との最初の接点から“総合的な印象”を形成しています。最初の対応次第で、面接に至らずに終わってしまうこともあるのです。
理由③:断るのが“心理的に難しい”
面接を辞退したいという気持ちはあるものの、連絡すること自体に心理的な負担を感じてフェードアウトしてしまう――これも若年層を中心に非常に多い行動です。
「申し訳ない」「言いづらい」「言い訳が思いつかない」といった理由で、未読スルーや既読無視が選ばれてしまいます。このような“スルー文化”の根底には、できるだけ人間関係での摩擦を避けたいという傾向が見られます。
さらに、「もし面接に行って不採用になったら傷つくかもしれない」という“損失回避バイアス”や、「今、この気まずさから逃れたい」という“即時報酬バイアス”が働き、面接を無断で辞退する行動へとつながってしまうのです。
面接に来ないをなくす対策
対策①:応募直後のスピードと丁寧さを徹底する
応募が来たら、できる限り早く、できれば1時間以内に連絡を取りましょう。返信文には「お会いできるのを楽しみにしています」など、温かみのある言葉を添えることで印象は大きく変わります。
また、面接日程は複数の候補を提示し、応募者が選びやすいように配慮することが重要です。スピードと丁寧さは、医院の誠意と信頼感を伝える第一歩となります。
対策②:「歓迎されている」ことを明確に伝える
応募後の対応で、医院が応募者を歓迎しているという気持ちをしっかり伝えることが、面接辞退を防ぐ鍵です。面接前日に「明日お待ちしています」と一言送るだけでも、応募者の安心感は大きく変わります。
さらに、当日の受付対応や、ウェルカムボードなどの小さな配慮が応募者の緊張を和らげ、「この医院なら安心して働けそう」という印象を与えます。
対策③:面接の“心理的ハードル”を下げる
求職者が面接に対してプレッシャーを感じる要因をあらかじめ取り除いておくことで、辞退の確率は下がります。「履歴書不要」「私服OK」「オンライン面接可」などの条件は、応募者が一歩を踏み出しやすくなる要素です。
また、交通費の一部補助や参加特典などのインセンティブがあれば、「とりあえず行ってみよう」と行動を後押しする効果も期待できます。
対策④:「連絡しやすさ」も設計のうち
辞退の連絡がしづらいと感じる応募者に対しては、「連絡しやすい手段」をあらかじめ用意しておくことが有効です。電話だけでなく、LINEやSMS、メールなど複数の連絡手段を提示しましょう。
また、「日時変更や辞退は、こちらに一言いただければ大丈夫です」と明記することで、心理的ハードルを下げることができます。辞退用のテンプレート文を一緒に送るのも効果的です。
まとめ
面接に来ない応募者を「やる気がない」と一括りにするのは早計です。そこには、選択のストレス、不安、気まずさを避けたいという人間らしい心理が隠れています。
重要なのは、「どうしたら来てもらえるか」ではなく、「どうすれば“行きたくなる医院”になれるか」を考えること。
そのためには、応募者の視点に立った採用設計と、スピード・安心感・誠実さの積み重ねが何よりも大切です。
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ライター
(株)Dental Happy 代表取締役
2008年に歯科衛生士専門の人材紹介会社を設立。これまで2000名を超える歯科衛生士と面談し就職先の決定に大きく関わる。関東エリアにある約2000人の歯科医院経営者より採用担当としての依頼を受ける。株式会社ヨシダや神奈川県歯科医師会より歯科衛生士の採用に関する講演依頼を受け登壇。